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浦和地方裁判所 平成11年(レ)24号 判決

控訴人 株式会社オリエントコーポレーション

右代表者代表取締役 新井裕

右訴訟代理人弁護士 磯貝英男

同 新居和夫

被控訴人 A野花子

主文

一  原判決を取り消す。

二  右当事者間の飯能簡易裁判所平成一〇年(ロ)第三三六号支払督促申立事件について、同裁判所書記官が平成一〇年八月二四日にした仮執行宣言付支払督促は、被控訴人に対し、六五万六九八二円及び内金六一万七五五八円に対する平成一〇年六月一七日から支払済みまで年二九・二パーセントの割合による金員の支払を命じる限度で、これを認可する。

なお、右限度を超える右仮執行宣言付支払督促は、第一審における控訴人の請求の減縮に伴い、失効した。

三  異議申立後の訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴人の申立て

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、六五万六九八二円及び内金六一万七五五八円に対する平成一〇年六月一七日から支払済みまで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

四  仮執行の宣言

第二事案の概要

一  本件は、控訴人が、被控訴人に対し、同人に貸与したクレジットカード(以下「本件カード」という。)の使用に係る物品購入等の代金の立替金及び遅延損害金の支払を求め(ただし、控訴人の前記申立ての二は、第一審における減縮後の請求である。)、これに対し、被控訴人において、本件カードを使用したのは、被控訴人ではなく、被控訴人が紛失した本件カードを拾得した第三者であり、被控訴人は控訴人に本件カードの紛失を届け出ているから、控訴人主張の立替金及び遅延損害金の支払義務を負わないと主張して、控訴人の請求を争っている事案である。

二  前提となる事実

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  控訴人は、平成九年九月二日、被控訴人との間で、「コジマカード会員規約」「オリコカード会員規約」と題する各規約(以下「本件会員規約」という。)における以下の約定からなるクレジットカード契約(以下「本件カード契約」という。)を締結し、被控訴人に対し、本件カードを貸与した。

(一) 被控訴人は、控訴人の加盟店において、本件カードを呈示し、物品の購入ないしサービスの提供を受けることができる。

(二) 被控訴人は、控訴人に対し、(一)の代金を控訴人が被控訴人に代わって加盟店に立替払することを委託する。

(三) 被控訴人は、控訴人に対し、(二)の立替金を各月末日締めで翌月二七日限り支払う。

(四) 被控訴人は、(二)の立替金の支払を怠ったときは、控訴人に対し、当該立替金に年二九・二パーセントの割合による遅延損害金を付加して支払う。

(五) 被控訴人は、本件カードの署名欄に自署し、善良なる管理者の注意をもって本件カードを利用、管理する。

(六) 本件カードは、被控訴人のみが利用することができ、被控訴人は、これを他人に貸与したり、譲渡してはならない。

(七) 被控訴人が、(五)、(六)に違反し、他人にカードを利用されたことにより生じた損害は、被控訴人が負担する。

2  控訴人は、右同日、被控訴人との間で、以下の約定からなる「カード会員保障制度規約」と題する規約(以下「本件保障規約」という。)について合意した。

(一) 被控訴人が本件カードを紛失し、又は盗難等にあったことを知ったときは、直ちに控訴人に連絡の上、最寄りの警察署にその旨を届け出るとともに、控訴人所定の届出書を控訴人に提出する。

(二) 控訴人は、(一)の通知を受理した日の六〇日前以降に行われた不正使用による損害を顛補する。

(三) ただし、控訴人は、被控訴人の故意又は重大な過失に起因する損害については、顛補の責任を負わない。

3  本件カードは、その使用者が被控訴人であるか否かはさておき、平成九年一一月一日から平成一〇年一月一九日までの間、別表記載のとおり四三回使用された。

4  控訴人は、右使用に係る代金の合計六一万七五五八円を各加盟店に立替払いした。

5  被控訴人は、平成九年一〇月二七日、控訴人に対し、本件カードを紛失したことを電話で通知したが、その後、警察への届出はしていない。

三  本件訴訟における争点

1  第一の争点は、被控訴人が控訴人に対して前提となる事実3の立替金六一万七五五八円(以下「本件立替金」という。)の支払義務を負うか否かであるが、この点に関する当事者の主張は、以下のとおりである。

(控訴人)

(一) 本件カードの使用形態は、被控訴人がカードを紛失したという日の前後を問わず一辺倒であり、第三者による使用ではない。

(二) 被控訴人は、カード紛失盗難届を返送せず、また、控訴人の催促にもかかわらず、最寄りの警察署への届出をしていないから、本件立替金の支払義務を負う。

(三) 被控訴人が右によって損害を被るとしても、それは、被控訴人の故意又は重大な過失に起因するものであるから、控訴人がその損害を顛補しなければならないものではない。

(被控訴人)

(一) 被控訴人は、平成九年一〇月二七日、本件カードを紛失しており、別表記載の本件カードの使用者は、これを拾得した第三者である。

(二) 被控訴人は、前提となる事実4の通知の後一週間以内に、カード紛失盗難届を返信用の普通郵便で控訴人に返送しているので、本件立替金の支払義務はない。

2  第二の争点は、被控訴人が控訴人に対して支払義務を負う場合の本件立替金の帰趨であるが、この点に関する控訴人の主張は、次のとおりである。

(一) 被控訴人は、本件立替金の最終の支払期日である平成一〇年三月二七日に、同日までに支払期日が到来したものを含め、本件立替金全額の支払を怠った。

(二) 控訴人は、その後、同年六月一六日に被控訴人から五九三円の支払を受けたので、これを本件立替金に対する最終の支払期日の翌日である同年三月二八日から当該支払日である同年六月一六日までの年二九・二パーセントの割合による遅延損害金四万〇〇一七円の一部として充当した。

(三) よって、控訴人は、本件カード契約に基づき、被控訴人に対し、(一)の本件立替金六一万七五五八円、(二)の遅延損害金の残金三万九四二四円、以上合計六五万六九八二円及び本件立替金に対する最終支払日の翌日である平成一〇年六月一七日から支払済みまで約定の年二九・二パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

第三当裁判所の判断

一  本件カード契約においては、前提となる事実1、2のとおり、本件会員規約をもって、カードの貸与を受けた会員において、カードの使用、管理につき善管注意義務を負い、カードを他人に使用させることが禁じられており、その一方で、本件保障規約をもって、会員において、カードを紛失し、又は盗難等にあったときは、所定の手続を履践すれば、カードが第三者に不正使用されたことにより会員の被る損害を控訴人が顛補することになっているのであるから、そのような各規定の内容に鑑みれば、会員は、その貸与を受けたカードの使用に係る控訴人の立替金については、原則として支払義務を負い、例外的に、カードが第三者により不正使用された場合には、本件保障規約所定の手続を履践することによって、控訴人が損害の顛補をすることになるため、損害顛補請求権と立替金債務との相殺により、立替金の支払義務を免れるにすぎないと解するのが相当である。

したがって、控訴人において、会員に貸与したカードの使用に係る立替金につき、当該会員にその支払を求めるためには、請求原因として、当該カードの使用及びこれによる控訴人の立替払いを主張立証すれば足り、当該カードの使用者が会員であるか、それとも、第三者であるかを主張立証するまでの必要はなく、その使用者が第三者である場合には、立替金の支払義務を争う会員において、抗弁として、当該カードの使用者が第三者であって、かつ、本件保障規約所定の手続を履践したことを主張立証しなければならないものというべきである。そして、この場合にも、本件保障規約によれば、控訴人において、再抗弁として、第三者による本件カードの使用について、会員に故意又は重大な過失があることを主張立証することによって、会員に対し、その立替金の支払を求め得ることになる。

これを本件についてみると、本件カードは、平成九年一一月一日から平成一〇年一月一九日までの間、現に使用されていて、控訴人は、各加盟店に対し、その使用に係る代金の合計六一万七五五八円を立替払いしていることは、前提となる事実3、4のとおりであるところ、被控訴人は、同5のとおり、本件カードを紛失したとして、控訴人に電話でその旨の通知をしているが、警察への届出はしていないのである。したがって、被控訴人が本件保障規約所定の手続の履践を怠っていることは明らかであるから、被控訴人がその主張のように本件カードを紛失し、これを拾得した第三者が本件カードを不正使用したのか否かについて判断するまでもなく、被控訴人は、控訴人から貸与を受けた本件カードの使用に係る立替金の支払義務を免れないものといわなければならない。

二  別表記載の本件カードの使用に係る立替金の帰趨は、弁論の全趣旨によれば、控訴人主張のとおりであると認められ、この認定を妨げる証拠はない。

三  よって、控訴人の本訴請求(ただし、第一審における減縮後の請求)は、理由があるから、これを認容すべきところ、本件に関しては、主文第二項掲記の仮執行宣言付支払督促があるので、これを本訴請求の限度で認可し、被控訴人の異議申立後の第一、二審の訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 齋藤大巳 平城恭子)

〈以下省略〉

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